──「不器用」だけでは片付けられない──「ちゃんとやりたいのに、体がついてこない」の背景にあるもの
はじめに
飲み物をこぼさないようにコップを慎重に持つ子どものイラスト

「また飲み物をこぼしたの?」
「そそっかしいんだから。」
「ちゃんと持って!」
「何回言ったらわかるの?」

そんな言葉を、つい口にしてしまったことはありませんか?

でも、その子は誰よりも
「今日は気をつけよう。」
「今度こそ。」
そう思っているのかもしれません。

頭ではわかっているのに、思うように体が動いてくれない。

そんな姿の背景には【DCD(発達性協調運動症)】という発達特性が関係していることがあります。

今回は、そんなDCDのある子どもたちにみられる特徴や、家庭でできるサポートのヒントについて、一緒に考えていきます。

DCD(発達性協調運動症)とは?

DCD(Developmental Coordination Disorder:発達性協調運動症)は、体を思った通りに動かしたり、複数の動きを組み合わせたりすることが苦手な発達特性です。

知能とは関係なく、「やり方を知らない」「努力不足」ということでもありません。

頭では理解していても、動きを正確に調整したり、力加減をコントロールしたりすることが難しいため、日常生活や学校生活のさまざまな場面で困りごとが生じます。

ADHDやASDとあわせて見られることも少なくありません。

日常ではこんな様子が見られます
歩いていてつまずく子どものイラスト

例えば、
・飲み物をよくこぼす
・人や机によくぶつかる
・転びやすい
・字を書くのに時間がかかる
・箸やハサミ、ボタン、靴ひもが苦手
・ボール遊びや縄跳びなど体育が苦手
・工作や図工で思うように手が動かない

一つひとつを見ると「不器用な子」と思われがちですが、本人にとっては毎日の生活の中で大きな困りごとになっていることがあります。

同じ「こぼす」でも、その理由は違うことがあります

ADHDでも、飲み物をこぼしたり、物を落としたりすることがあります。

その場合は、不注意や気が逸れたことが影響していることが見られます。

一方、DCDでは、「こぼさないように」と意識していても、思った通りに体を動かしたり、力加減を調整したりすることが難しく、結果として同じような失敗につながることがあります。

見た目は同じ失敗でも、その背景にある理由は異なることがあります。

だからこそ、「また不注意かな」と決めつけるのではなく、「どうしてこの子は困っているのだろう」と考えることが大切です。

本人は「ちゃんとやりたい」と思っています
鉛筆やボール、コップを思い浮かべる子どものイラスト

DCDの子どもたちは、決して「どうでもいい」と思っているわけではありません。

綺麗な字を書きたい。
ボールをキャッチしたい。
こぼさないように持ちたい。
みんなと同じようにできるようになりたい。

その気持ちは誰よりも持っています。

それでも思うように体が動かず、失敗を繰り返してしまうことがあります。

だから「不器用だから」で終わらせてしまうと、本人の努力や悔しさは見えなくなってしまいます。

「やりたいのに、思うようにできない。」

そのもどかしさは、本人にしかわからない苦しさなのかもしれません。

「頑張る」よりも「工夫する」
鉄棒で先生に補助してもらう子どものイラスト

同じ失敗を何度も繰り返すと、「もっと頑張らなきゃ」「もっと気をつけなきゃ」と思って取り組むこと自体が嫌になってしまうかもしれません。

DCDを知ることで、「もっと気をつけて」「もっと練習しよう」だけでは難しい理由が見えてきます。

繰り返し失敗してしまうことがあれば、「そうなっても困らない」ようにしてあげるなどの工夫をすることで、自信を失わずに続けられる助けになる場合があります。

例えば、
・倒れにくいコップや蓋付きのタンブラーを使う
・持ちやすい文房具を選ぶ
・字を書く量を調整する
・体育では無理のない参加方法を考える

など。大切なのは、「気をつける力」を求めることではなく、その子が力を発揮しやすい環境を整えることです。

理解が支援につながります

DCDという特性を知ることで、保護者は学校や周りの大人への困りごとを伝えやすくなります。

「努力が足りない」のではなく、「こういう特性があるので、このような配慮があると助かります。」と相談できるようになります。

先生や家族が特性を理解し、必要な場面で少しのサポートがあるだけでも子どもは安心して挑戦できるようになります。

理解は、特別扱いをするためではありません。

その子に合った環境を、一緒に作るためにあるのです。

自分を責めるのではなく、自分を知る

好きなのに、どうしても人より時間がかかる。

「不器用だから仕方ない。」

そんな一言で片付けられてしまうことがあります。

でも、特性を知ることで見え方は変わります。

「もっと頑張らなきゃ」ではなく、
「どうすれば自分らしく続けられるだろう。」
という視点です。

苦手な部分は道具で補えないだろうか。
得意なところでカバーできないだろうか。
誰かに少し助けてもらえたら続けられるだろうか。

工夫を重ねながら、自分なりの方法を見つけることで、好きなことを諦めずに続けられることもあります。

特性を知ることは、自分に限界を決めることではありません。

自分らしく生きる方法を見つけるための第一歩です。

親の関わり方のヒント

では、家庭ではどのように関われば良いのでしょうか。

ヒントになる考え方を4つ挙げてみます。

① どうしたらやりやすいかな?

NG → 「ちゃんと持って。」「もっと気をつけなさい。」

推奨 → 「このコップだと持ちやすいかな?」「どうしたらこぼしにくいかな?」

気をつけることを求めるより、工夫を一緒に考える。

② 頑張ったこと、工夫したことを褒める

NG → 「また失敗したね。」

推奨 → 「今日は最後まで頑張ったね。」「そういう工夫ができたんだね。」

結果より挑戦したことや工夫したことを認めてもらえると、自信につながります。

③ 一人で頑張らせすぎない

NG → 「みんなできるんだから。」

推奨 → 「先生にも相談してみようか」「この道具を使ってみよう。」「手伝ってもらおう。」

助けてもらうことは甘えではありません。

その子が力を発揮できる環境を作ることも、大切な支援です。

④ 「好き」をあきらめさせない

NG → 「向いてないからやめる?」

推奨 → 「どうしたら続けられるかな?」「何か工夫できることはあるかな?」

好きなことだからこそ、できないことがつらい。

でも、対応や周りのサポートによって、好きなことを続けられるその子らしい道が見つかることもあります。

おわりに
蓋付きのコップを持つ子どもを笑顔で見守る保護者のイラスト

DCDがあるからと言って、その子の可能性まで決まるわけではありません。

私たちはつい、「普通にできること」を目標にしてしまいがちです。

でも、本当に大切なのは、「普通」に近づくことではなく、その子が安心して笑って過ごせること。

そして、夢中になれることを見つけ、自分らしく成長していけることではないでしょうか。

好きなのに、思うようにできない。

そんな時こそ、「不器用だから。」で終わらせるのではなく、「どうしたら続けられるかな。」と一緒に考えてくれる人がいる。

苦手なことを責めるより、その子に合ったやり方を工夫する。

できないことばかり見るのではなく、その子らしい力を育てていく。

理解してくれる人がいて、自分を知り、自分に合った方法を見つけていくことができれば、その子は好きなことをあきらめずに歩んでいけるかもしれません。

その積み重ねが、その子らしく生きていく力になっていくはずです。

次回予告

次回は、「読む」「書く」「計算する」といった学習の一部に難しさが見られることがあるLD(限局性学習症)について詳しくご紹介します。

「勉強が苦手」「努力が足りない」と見えてしまう背景にも、その子なりの学びにくさが隠れていることがあります。

ぜひ次回もご覧ください。