──「どうして伝わらないの?」その戸惑いの背景にあるもの
はじめに
植物を観察する子どものイラスト

「話しかけても、どこか届いていない気がする。」
「悪気がないのはわかっている。でも、なぜかすれ違う。」
「この子の見ている世界が、どうしても想像できない。」

そんな戸惑いを抱えながら、お子さんと向き合っている方もいるかもしれません。

ASD(自閉スペクトラム症)は、生まれつきの脳の特性の一つです。
「スペクトラム」という言葉が表すように、その特性は一人ひとり異なります。人と話すことが好きな子もいれば苦手な子もいます。好きなことも、困りごとも、将来歩む道も本当にさまざまです。だからこそ、「ASDだから○○」と一言で説明することはできません。

今回は、ASDの特徴と、子どもたちが感じやすい困りごと、そして家庭でできる関わり方について考えてみたいと思います。

ASDの子どもたちによく見られる特徴
虹を見る子どもと植物を観察する子どものイラスト

ASDの子どもたちには、次のような特性が見られることがあります。曖昧な表現や指示を理解することが苦手だったり、急な予定変更が苦手だったり、相手の気持ちや場の空気を読み取ることに難しさがあったりします。また、音・光・におい・肌触りなどの感覚に敏感、または鈍感なことがあり、興味のあることには非常に詳しくなる一方、自分の気持ちを言葉にすることが苦手な子もいます。

もちろん、これらがすべて当てはまるわけではありません。特性の現れ方は一人ひとり違います。

ASDの特性は、周囲から「わがまま」「こだわりが強い」「空気が読めない」と誤解されてしまうことがあります。しかし、その行動の背景には、「どうしたらいいか分からない」「予定が変わることが不安」「言葉の意味をそのまま受け取ってしまう」といった、その子なりの理由が隠れていることも少なくありません。

行動だけを見るのではなく、「なぜそうなるのだろう」と背景に目を向けることが、理解への第一歩になります。

困りごとは「見えにくい」

ASDの子どもたちの困りごとは、周囲から見えにくいことがあります。

たとえば「あとで片付けてね」という言葉。大人にとっては自然な表現ですが、「あとでっていつ?」「どこまで片付ければ終わり?」と、具体的に分からず困ってしまう子もいます。そんな時は「夕飯の前にランドセルを棚へ置こう」のように具体的に伝えると、安心して行動できる子もいます。

急な予定変更も同じです。大人なら「今日は予定変更ね」と切り替えられることでも、本人の中では予定が崩れ、大きな不安につながることがあります。「今日は予定が変わるかもしれないよ」と少し予告するだけで、不安が軽くなることもあります。

周りからは「こだわりが強い」「融通が利かない」と見えてしまう行動にも、本人なりの理由が隠れていることがあります。

学校生活で疲れてしまうこともあります

学校は、一日に何十人もの人と関わり、集団生活を送る場所です。周りに合わせ続けたり、気を遣い続けたりすることで、大きなストレスを抱えてしまう子もいます。その積み重ねが、気持ちが不安定になったり、学校へ行けなくなったりすることにつながる場合もあります。

もちろん、ASDだから必ず不登校になるわけではありません。毎日元気に学校へ通っている子もたくさんいます。

ただ、「学校へ行けない子」ではなく、「学校生活で精一杯頑張ってきた子」なのかもしれない、という視点を持つことも大切です。

学校へ行けなくなったある子は、最初は門まで行って帰ってきていました。やがて保健室で給食を食べられるようになり、午後だけ過ごせるようになりました。周りは嬉しくなり、「次は授業にも出てみよう」と期待を抱くのは自然なことです。しかし、その子にとっては、その「あと一歩」がとても大きな壁でした。

「行けなかった」という結果だけを見るのではなく、「行こうと思えた」「制服に着替えられた」「玄関まで行けた」そんな小さな一歩にも目を向けることが、その子の自信につながることがあります。

「こだわり」は困りごとだけではありません
植物を観察する子どもと研究者のイラスト

ASDの特徴の一つとして「こだわり」があります。生活の中では困りごとになる場面もありますが、その「こだわり」が将来の強みにつながることもあります。

私が出会ったある子は、植物が大好きでした。学校にも植物を持って行き、自分なりの安心できる世界を作っていました。そして、その子の夢は「農業」。好きなことが、そのまま将来の夢につながっている姿がとても印象的でした。

好きを無理に「才能」へ変えようとする必要はありません。

まずは安心して好きでいられること。興味のある世界を否定せず、その子のペースで楽しめること。その積み重ねが、結果として将来の夢や仕事につながることもあります。

大切なのは、大人が将来を決めることではなく、その子が自分らしく世界を広げられるよう、そっと応援していくことなのかもしれません。

発達特性は重なって現れることもあります

発達特性は、一つだけで現れるとは限りません。

ASD+ADHDでは、不注意や衝動性、集中の難しさが重なることがあります。ASD+DCD(発達性協調運動症)では、字を書くことや体を使う動作の苦手さが加わることもあります。ASD+LD(学習障害)では、読み書きや計算に困難が生じることもあります。同じASDでも、困りごとは一人ひとり大きく異なります。

家庭でできる関わり方
子どもを少し離れて見守る保護者のイラスト

「何とかしてあげたい」と思うのは親として当然の気持ちです。でも、焦る気持ちが子どもにとってプレッシャーになってしまうこともあります。

ある保護者の方が、「付かず離れずの距離でいることが大切だった」とおっしゃっていました。見放したわけでも、突き放したわけでもない。

「何かしなければ」と焦るほど親も疲れ、子どももプレッシャーを感じてしまうことがあります。

何度も学校の話をするのでもなく、見放すのでもない。「困ったらいつでも味方だよ。」そんな安心感を伝え続けることが、その親子には合っていたそうです。

「何かをしてあげること」だけが支えることではない、と教えてもらいました。

親の関わり方のヒント①【小さな一歩を見逃さない】

NG → 「昨日できたんだから今日もできるよね」「なんでできないの?」

推奨 → できなかったことより、できたことに目を向ける

励ますつもりの言葉が、本人には「今の自分ではダメなんだ」と受け取られてしまうこともあります。「行こうと思えた」「制服に着替えられた」、そんな小さな一歩を一緒に喜ぶことが、その子の自信につながります。

親の関わり方のヒント②【ペースを尊重する】

NG → 結果だけを評価する/急いで次の目標を求める/「普通はこうでしょ」と比べる

推奨 → 焦って次の目標を求めない/その子のペースを大切にする

少し進めたからといって、すぐ次を求められると、また動けなくなってしまうこともあります。その子に合ったペースを大切にすることが、結果的には一番の近道になることもあります。

親の関わり方のヒント③【安心できる距離で見守る】

NG → 急いで解決しようとする/反応を期待しすぎる/学校や将来の話を何度も繰り返す

推奨 → 付かず離れずの距離を大切にする/「困ったらいつでも味方だよ」という安心感を伝える/保護者も一人で抱え込まず相談する

おわりに

子育て中は、今日を乗り切るだけで精一杯です。朝起きられるかな。今日は学校へ行けるかな。そんな毎日を過ごしていると、その先のことまで考える余裕はなかなかありません。

それでも、子どもはいつか大人になります。親も年齢を重ねます。だからこそ、小さい頃から少しずつ「この子にはどんな環境が合うのだろう」「どんなことが得意なんだろう」「どんな選択肢があるのだろう」と、一緒に考えていくことは決して早すぎることではありません。

親が子どもの人生を歩いてあげることはできません。

でも、その子が将来、自分らしく歩いていくための選択肢を、一つずつ増やしてあげることはできるのではないでしょうか。

次回予告

次回は、「不器用」「字を書くのが苦手」「ボール遊びや運動が苦手」といった特徴が見られることもあるDCD(発達性協調運動症)について詳しくご紹介します。

「努力不足」や「やる気がない」と誤解されがちな背景にも、発達特性が関係していることがあります。

ぜひ次回もご覧ください。